【きもつき情報局】ロケット基地と糸川博士を祝う式典開催

今年(2012年)は肝付町内之浦地区にある内之浦宇宙空間観測所が開設されてから50年、そして日本のロケット開発の父と称される糸川英夫博士の生誕100周年にあたる、二つの意味でおめでたい年です。それを記念して11月10日と11日の二日間にわたり、内之浦ではさまざまな記念行事が行われました(主催:糸川英夫博士生誕100周年記念事業・実行委員会)。今回の「きもつきレポート」では、その記念事業について写真をまじえながら詳しくレポートしていくことにします。
初日(11月10日)
あいにくの小雨が降る中、内之浦宇宙空間観測所の開設50周年を記念する式典と講演会が11月10日、400名を超える出席者を得て、同地区の銀河アリーナ・大ホールで開催されました。
121110seats.jpg
最前列に陣取るのは日本の宇宙開発を支えてきたそうそうたるメンバー
121110articles.jpg
宇宙開発に関連する過去の新聞記事を集めた資料も展示
式典ではまず、宇宙科学研究所の小野田淳次郎所長による開会のあいさつに続いて、共催者である鹿児島県から丹下甲一副知事と肝付町の永野和行町長が祝辞を述べ、さらに来賓を代表して内閣府宇宙戦略室の國友宏俊参事官などがあいさつに立ちました。
121110openingremark.jpg
開会のあいさつをする小野田所長
次の祝電披露に続いて「日本のロケット開発の父 糸川英夫生誕100年」と題する記録映画を上映、内之浦にロケット基地が建設された立役者であり、日本のロケット開発の第一人者であった糸川博士の生涯と功績について参加者全員が改めて学ぶ機会を得ました。
121110documentary.jpg
糸川博士の生涯をたどる記録映画
さらに映画の後は、日本のロケット開発と内之浦の関係についてふり返るコーナーが設けられました。
まずは「内之浦のこれまでの歩みと今後」と題して、冒頭に開会のあいさつをした小野田淳次郎・宇宙科学研究所長がスピーチ、「この50年間で396基のロケットが内之浦から発射されました。それが、内之浦がいかに大きな貢献をしてきたかを示しています」と語り、日本のロケット開発における内之浦の貢献を賞賛しました。
121110opening.jpg
内之浦の貢献をたたえる小野田所長
また、1970年日本初の人工衛星「おおすみ」の打ち上げに成功した際の町をあげてのお祝いなど印象深い思い出話などをおりまぜながら、来年夏に打ち上げが予定されているイプシロンロケットについて、「内之浦は今後も重大な役割をはたすことになるので、これからも引き続き支援してほしい」と地元への協力を要請しました。
それに続いて開かれた懐古談(座談会)では、地元を代表して写真家や元町長、そして婦人会のメンバーなど4名の方が出席し、JAXA(宇宙航空研究開発機構)名誉教授の的川泰宣さんが司会を務める中、それぞれが興味深いエピソードを披露しました。
そうした懐古談から伝わってきたのは、ロケット開発に従事する科学者と地元民の親密な関係です。スポーツや飲み会を通じての親睦の深め合いや、打ち上げに失敗したときの地元民の励ましなど、文字通り、二人三脚で日本のロケット開発が続いてきたことが4名の証言者の話からよくわかります。
その一方、近年、そうしたつながりが希薄化する中、それをどうやって復活させていけばいいのか――彼らの話から今後の課題も浮き彫りになったといえます。
121110paneldis.jpg
左が的川教授で右が内之浦の住民代表
そして座談会の後は、この日のメインイベント、講演会です。
トップバッターを務めたのは、宇宙科学研究所名誉教授の秋葉鐐二郎さん。「糸川先生と初期の宇宙開発、そしてこれから」と題する講演の中で秋葉教授が強調したのは糸川流の「逆転の発想」です。先見の明を持ち続け、常に挑戦し続けた糸川博士の姿勢にならい、新しい発想で研究開発を進めていくことの大切さを指摘しました。
121110lecture01.jpg
日本初の人工衛星「おおすみ」について語る秋葉教授
次に演台に立った的川泰宣名誉教授は「内之浦から飛躍した日本の宇宙科学」と題する講演を行い、内之浦を舞台に糸川博士が築きあげてきた日本の宇宙開発について詳しく説明するとともに、その過程で内之浦の人々がはたしてきた重要な役割について述べました。
121110lecture02.jpg
糸川博士の功績について説明する的川教授
そしてラストバッターとして登場したのは、「イプシロンロケットと内之浦のこれから」と題する講演を行った宇宙科学研究所の森田泰弘教授です。来年夏に内之浦から打ち上げが予定されているイプシロンロケットの意義について「みんなの宇宙への敷居を下げよう」と述べ、同ロケットがコストや性能の面において画期的なロケットである点を強調し、そのロケットの基地となる内之浦がそれにより活性化することへの期待感を表明しました。
121110lecture03.jpg
イプシロンロケットの意義について説明する森田教授
最後に、内之浦宇宙空間観測所の峯杉賢治所長が閉会のあいさつを行い、この日の式典と講演会は終了しました。
しかしながら、それでこの日のイベントがすべて終わったわけではありません。次に予定されていた映画の上映会(小惑星探査機「はやぶさ」をテーマにした映画「おかえり、はやぶさ」)の前に地元内之浦の女性たちによる「万越し祝い」が演じられました。
この「万越し祝い」とは、その昔内之浦の漁師がブリの漁で1万匹を越える大漁のことを「万越し」と呼び、「アカネかぶり」という赤い鉢巻と褌ふんどしを締めて港に戻ったり、祝いの酒をふるまわれたりしたことを題材に、地元の人たちがその伝統を演芸という形で復活したものです。
121110fest1.jpg
寸劇風にアレンジされた「万越し祝い」
121110fest2.jpg
会場からの声援に応えるメンバー
真っ赤な鉢巻を頭にまいて、威勢のいい音楽と踊りで女性たちのパワーに会場に集った人たちも圧倒されている感じです。内之浦の町に再び「万越し」が戻ってくる日はないのかもしれませんが、少なくともそれを通じて町に活気を取り戻したいという町の人たちの心意気は強く伝わってきます。
ロケットと漁業の町――この日のイベントを通じて、内之浦のそうした二つの特徴が存分に伝わってくる記念すべき一日となったのでした。
2日目(11月11日)
内之浦宇宙空間観測所で行われたこの日のメインイベントは、なんといっても糸川博士の銅像の除幕式です。午前10時の予定時間を前にして、午前9時すぎには少しずつ報道関係者などが集まり始めました。心配されていた天候も時折小雨がちらつくものの多少風が強いくらいで、崩れるまではいきません。それどころか、雲の隙間からうっすらと日が差す場面もあるくらいです。
予定より20分ほど遅れて始まった除幕式には、前日の式典で祝辞を述べた鹿児島県副知事や地元、肝付町の町長と町議会議長、地元選出の国会議員、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の関係者、さらには糸川博士と同じ誕生日の子どもたちなどが出席、除幕式用の紅白のロープを全員で引いて銅像をおおっていた白い布がとれると、威厳に満ちた糸川博士の銅像が姿を現しました。
121111statue01.jpg
姿を表した糸川博士の銅像
ソフトと呼ばれる型の帽子をかぶり、腕組みをして、目の前に広がる太平洋をしっかり見つめる糸川博士――海の向こうにある遠くの水平線を見続けているかのような、そんな姿からは、日本の宇宙開発の未来を常に見続け、その発展のために全身全霊で打ち込んだ糸川博士の強い意志と思いが伝わってくるようです。
121111statue03.jpg
遠くを見つめるその眼差しの先には何が見えているのか……
一方、内之浦宇宙空間観測所にとって、さながらオープンハウスとなったこの日、敷地内ではさまざまな施設が開放され、一般向けのイベントが繰り広げられました。
まず、メインの会場となったM台地では、M(ミュー)ロケットの発射設備を体験するコーナーが設けられ、M整備塔でのランチャー駆動実演などが行われる一方、地元肝付町の物産を販売するコーナーも設けられ、たくさんの人でにぎわいました。特に人気だったのは、宇宙服のレプリカを実際に試着できるコーナーです。赤茶系の色をした宇宙服を着ようと多数の親子連れが列をつくって並んでいました。
121111spacesuits.jpg
親子で宇宙服を着れるなんて一生に残る思い出です
さらに、糸川博士の銅像の近くにあるKSセンターでも子供たちの歓声が響き渡りました。ペットボトルでつくった「水ロケット」を発射する実験が行われていたのです。
係員の指導のもと、子供たちが自分でつくったロケットを発射台に載せ、そこに5気圧の空気を注入して発射すると、水ロケットが勢いよく上空めがけて飛んでいきます。これには子供たちだけでなく、親たちも大喜びです。
121111waterrocket01.jpg
子供たちは水ロケットの制作に一生懸命
121111waterrocket02.jpg
シューッという音を立てながら勢いよく飛び立つ水ロケット
121111waterrocket03.jpg
後ろから見たところ
また、その実験場の正面にあるKS発射ドームでは、発射用のドームとランチャーの駆動体験も行われました。水平になっていたランチャーが次第に持ち上がってくると、天蓋(てんがい)が大きな音を立てて開いていきます。
ここからさまざまなロケットが打ち上げられていったわけですから、この場にいた人たちの中には、日本のロケット開発の歴史に立ち会っているような気持ちになった人もいたのではないでしょうか。
121111KSlauncher.jpg
首が痛くなりそうです
広い敷地内で特に目を引いたのが、34メートルのパラボラアンテナの駆動実演です。普段はほとんど動くことのない巨大なアンテナが、まるでダンスをするかのように軽やかに動くのを見るのは、ほとんどの人にとって初めての体験だったのではないでしょうか。さまざまな科学衛星のほか、あの「はやぶさ」もこのアンテナで追跡したそうです。
121111antena.jpg
まるでダンスするかのように動く巨大なアンテナ
一方、管理棟の大会議室では、きのうに引き続き、JAXA関係者による講演会が開かれました。まず、昨日に続いて的川泰宣JAXA名誉教授が「糸川英夫博士の一生と現代」と題して講演。次に、文部科学省宇宙科学研究所の林友直名誉教授が「宇宙から地球を知る」というテーマでスピーチした後、最後はJAXA宇宙科学研究所の坂本成一教授が「宇宙に出てはじめてわかる地球のこと」と題して講演しました。
121111matokawasensei.jpg
大会議室で公演する的川教授
特に印象的だったのは、こうした日本の宇宙開発の第一線で活躍してきた、あるいは現役で活躍している科学者の話を最前列で熱心に聴いている小学生たちの姿でした。彼らの中から将来、日本の宇宙開発を支える人材が出てくるのかもしれません。
その意味で、今回の内之浦宇宙空間観測所での一連のイベントは、子供たちを宇宙にいざない、宇宙に興味をもってもらううえで非常に重要な機会を提供したといえるのではないでしょうか。
さて、この二日間のイベントを通じて多くの人が町内にこれほどの施設があることのすばらしさを改めて感じたのではないでしょうか。一時は、内之浦における宇宙開発の火が消えてしまうのではないかと危ぶまれるときもありましたが、イプシロンロケットの開発でその火が残り、それどころか火の勢いが増す可能性さえ出てきました。
その火を守り、さらに大きくするためにも地元の協力と支援が今後必要になることは明らかです。これからの官民をあげての取り組みが期待されます。
  • コメント: 0
  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)