絵画それは心のアルバム-田畑明美さん

色彩豊かな抽象的世界にポツンと1台の自転車がある風景。その力強くも繊細なタッチで描かれる油絵の作者は肝付町内之浦地区出身の画家、田畑明美さんです。

観光協会主催の塗り絵を審査する田畑さん

現在も内之浦地区に在住し、旅館業を営みながら意欲的に制作活動に取り組んでいます。そんな田畑さんが今年、古希を記念した個展を垂水市内の店舗やギャラリーで開催しました。

個展には過去の作品や新作など33点が展示されました。その中に画家としての原点となった作品「窓」があります。

描かれているのは近所の蒲鉾店。小窓からこぼれる明かりが無骨な自転車を照らしているもので、少し寂しげでありながらもどこか生命力を感じる作品です。

【地元の巨匠に師事】

田畑さんが絵画を本格的に始めたのは27歳の時。大学で服飾を勉強し、卒業後は織物会社で大島紬の文様デザインを担当。そして27歳で帰郷し、実家の旅館業を手伝っていました。

そこに出入りする知人に勧められて、地元の著名な画家、宍野勝文さんの絵画教室に通いだしたのが本格的な油絵との出会いです。

「当時は写実的な絵を中心に描いていました。見たままをいかに綺麗に描けるか、そんなことばかり考えていたのです。通い始めて数か月たった頃、近所で当たり前のように存在していたある光景を思いのまま心象画として描いてみました。タイトルは窓。私の原点となった作品です」。

田畑さんのアトリエ

【赤を基調とした自転車のある風景】

その絵画を宍野さんに見せたところ「とても素晴らしい。これが絵というものです」と手放しで褒められたのだそうです。

その日を境に心象風景画にのめりこみ、独特の世界観を次々に生み出してきました。大半が赤を基調としたもので、その中に必ずといっていいほど自転車が描かれているため、いつしか赤の明美、自転車の明美と呼ばれるようになったといいます。

「窓は私とって特別なものです。これまで手掛けてきた作品をどうしても欲しいという団体や施設には寄贈してきましたが、これだけは手放すことはないでしょう」。

【絵画が自身にもたらすもの】

田畑さんのアトリエには装飾が施された作品が今も飾られています。その空間で朝方までキャンバスに向き合うこともあるそうです。

「垂水市で開催された個展のために新作を描き、過去の作品を整理しました。それらを眺めていると当時の記憶が鮮明に蘇ってきました。私にとっての絵画とは思い出に浸れる心のアルバムのような存在です。改めて油絵に出会えて本当に良かったと思うことができました」。

これまで様々な公募展に積極的に参加し、各賞を総なめにしてきた田畑さん。現在は次の制作活動を続けるかたわら、宍野さんが開いた絵画教室を引き継ぎ、芸術の魅力を伝える活動にも力を注いでいます。

田畑さんの原点の作品「窓」は語りかけます。自分の世界を大切に、しかし独りよがりになってはよくないと。

その言葉を胸に刻み、今日もアトリエでキャンバスに向き合う田畑さんです。

【田畑明美 略歴】
1952年 肝付町(旧内之浦町)生まれ
1972年 香蘭女子短期大学服飾デザイン科卒業
現   在 創元会会員・鹿児島県美術協会会員・大隅美術協会会員
【主な公募展受賞歴】
1979年 県美展(初入選)
1986年 南日本美術展(奨励賞)
1987年 創元展(一般賞)
1993年 南日本美術展(秀作賞)
1995年 南日本女流美術展(女流賞)
2006年 鹿屋市美術展(委嘱作家賞)
2018年 創元展(会員賞)
2019年 県美展(会員賞)
2021年 南日本女流美術展(委嘱作家賞)

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