【きもつき情報局】やぶさめの馬たちは今

肝付町でいちばんにぎわうお祭りといえば、なんといっても高山地区で毎年10月に行われる「やぶさめ祭」です。昨年(2012年)の祭りについては、このきもつき情報局でも15回にわたり、「やぶさめロード」と題するレポートをお届けしたとおりです。
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昨年行われたやぶさめ
まずは、そのレポートをご覧になっていない方々のために、この高山のやぶさめについて簡単に解説することにしましょう。
やぶさめの主役
肝付町の高山地区は、16世紀の後半に島津の軍門に下るまで大隅半島を数百年にわたり支配していた肝付氏が城を築いていたところで、やぶさめはその伝統を今に伝える歴史的な神事といえます。
弓矢を手に馬にまたがった中学2年生の少年が四十九所神社の参道を疾走しながら、3カ所に設けられた的をめがけて矢を射るというもので、凛々(りり)しくも勇壮な姿が毎年、人々に感動を与えています。
射手に選ばれてから1か月あまりの訓練を経て、立派に大役を果たす少年がやぶさめの主役であることは間違いありません。しかしながら、以前のレポートでもお伝えしましたとおり、やぶさめには実にたくさんの人たちがかかわっており、彼らの支えがなければとうてい続けていくことはできません。
なかでも大事なのが、少年の乗る馬とその馬を育てている馬主です。1年に1度の晴れ舞台で立派な仕事ができるように、馬主は普段から馬を大切に育て、調教に励んでいるわけですが、その様子は一般には知られていないといっていいでしょう。
現在、やぶさめのために飼育されているのは高富士(17歳・牡馬)とはやぶさ(2歳・牡馬)の2頭の馬です。昨年はベテランの高富士に代わってはやぶさがデビューする予定だったのですが、当日の状態が思わしくないということで高富士が結局、本番で疾走することになりました。
あの日(昨年10月21日)から4ヵ月あまりがたち、2頭の馬はいまどんな暮らしをしているのか――それを知るために先日、馬主である川崎さん父子のもとを訪れることにしました。
普段は牛と同居
基本的に、高富士とはやぶさは肝付町が所有しており、馬主の川崎良秀さんは町からの委託で2頭の馬を飼育していることになります。彼らが暮らす厩舎(きゅうしゃ)は、ほかに12頭の牛が生活する牛舎に併設されていて、牛との同居状態にあります。
まず食事は1日2回、ワラと燕麦(えんばく)という麦属の穀物を混ぜたもので、時間をかけてゆっくりと食べていきます。驚いたのは、馬と牛でえさのなくなるスピードがかなり違ったということです。馬のほうがかなり遅く見えます。
調べたところ、牛はえさを少し噛んだだけで飲み込み反芻(はんすう)する一方、馬はそれができないので、きちんと歯でかんで胃の中に入れるという説明があります。そのせいかもしれません(専門家の方でご存知の方がいらっしゃいましたら、教えていただけると幸いです)。
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時間をかけてゆっくり食べる高富士
食事の後は、天気がよければ近くの畑を利用した柵付きの運動場へ移動して体を動かすことが日課になっています。ちなみに、取材した日は数日ぶりの快晴ということで、馬たちも久しぶりに外に出られてとてもうれしそうでした。
いたわり合う2頭の馬
その運動場までは厩舎から砂利道を少し歩いた後、一般道を横切って行きますが、見ていると、その一般道を走る車に物おじすることなく落ち着いています。ところが、運動場の入り口にさしかかると途端に落ち着きがなくなり、ソワソワした感じです。早く体を動かしたいのかもしれません。
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道路を横断する高富士(右)とはやぶさ
運動場に入ったらすぐに駆け出すんだろうな――そう思って見ていると、2頭の馬が驚くような行動に出ました。なんと柵の中に入るなり、いきなり地面に倒れこんだのです。しかもほぼ2頭同時に、です。もしかしたら体調が悪いのかと一瞬ヒヤッとしましたが、当の川崎さんは落ち着きはらっています。
「砂浴びといって、皮膚や体毛についているよごれを落とす動物の行動なんです」
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勢いよく体を地面にこすりつける高富士(画面奥がはやぶさ)
思いっきり砂浴びをした後、ようやく運動が始まります。良秀さんの父親で先代の馬主だった春義さんの合図で2頭が勢いよく駆け出しました。久しぶりの運動で当の馬たちも気持ちがよかったのでしょうが、それを見ている自分もなんだかすがすがしい気分になりました。
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高富士がはやぶさに走り方を教えているかのようです
一通り走り回った後は、自由時間です。運動場に生えている草をはんだり、毛づくろいをしたりして、思い思いの時間を過ごします。また親愛のしるしとしての「相互毛づくろい」で脇腹を鼻でこすりあったり、毛をかんだりする微笑ましい光景も見せてくれました。年齢的には親子どころかおじいさんと孫くらいの差があるにもかかわらず、これだけ親密な関係が2頭の馬の間にできているということに感動すら覚えます。
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仲睦まじく毛づくろいをし合っています
彼らはこの運動場で午前11時から午後4時頃まで過ごしますが、ここは車が行きかう道路沿いで、人の往来もけっこうあります。たまたま通りかかったおばちゃんが「子どもたちにしてみれば、馬に草をあげたり、なでたりできるので、ここに来るのを楽しみにしているんですよ」と教えてくれたとおり、近くの子どもたちには、小さな動物園として親しまれているようです。
というわけで、やぶさめの馬たちは今の時期、調教を受けながらもわりとゆったりとした日々を過ごしているように感じました。おそらく、やぶさめが近づくにつれて調教や訓練の内容にも若干の変化が出てくるのではないでしょうか。
引き続き、この2頭の馬、特にはやぶさの成長を見守っていきたいと思います。
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