「奉納時には雨が止む」。これは900年以上の歴史を持つ高山流鏑馬のジンクスだ。
事実、ここ数年の雨天時の流鏑馬では、奉納神事が始まると、それまで降っていた雨がピタリと止んでいる。そして10月15日に行われた今年の高山流鏑馬の予報は雨。
前日から降り続く雨の影響で馬場の状態が心配されたが、15日未明には雨が上がり、曇天ではあるものの無事に本番を迎えることができた。
本番当日の早朝。二日前の潮がけからこの日まで宮籠りしていた射手の増田蓮くんと後射手の近藤祐生璃くんが姿を見せた。二人とも体調が良さそうで、朝食を終えると化粧や着替えなどの準備に入った。
10月13日に柏原海岸で行われた潮がけ。海水をかけて身を清める。
先に支度を整えるのは後射手の祐生璃くん。流鏑馬神事と合わせて開催されるやぶさめ祭の開会式に参加するためだ。昨年、射手を経験しているだけあって少しばかり余裕を感じさせる。
化粧を施し狩衣姿になった蓮くんは、開会式から戻ってきた保存会メンバーらと合流し、宮籠りをしていた肝付町コミュニティセンターで、この日初めての神事に臨んだ。
支度を終えたばかりの蓮くん。
神事が終わると、お披露目を兼ねたパレードに出発する。武者行列や小中学生による音楽隊も加わり、町内を行進。道行く人は足を止めて声援をおくり、「凛々しくてかっこいい」など黄色い声も聞かれた。
四十九所神社を目指すパレード一行。
パレード一行はそのまま流鏑馬が奉納される四十九所へと進行。そこで少年に神をやどす儀式、弓受けの儀を行う。拝殿の中は女人禁制で、母親や親戚などは拝殿の外から儀式を見守った。
神官から弓を受け取り少年に神が宿る。
神となった射手が再び姿を現したのは午後2時。歓声と拍手が渦巻く馬場を通り抜け、鳥居前の出発地点に到着した。
高山流鏑馬神事は約330メートルの神社の参道、宮之馬場で行われ、100メートルおきに建てられた3つの的めがけ、馬上から矢を放つ。当たった数で豊作を占う神事で、矢を射ない空走りの後、全三走行われる。
この日選ばれた神馬は、今年から仲間に加わった若馬「流星号」だ。
第一走。大勢の観客の前で初めて大役を務める流星号に集まった観客らは固唾をのんで見守った。そうした不安をよそに当の流星号は悠々と駆け出す。
色とりどりの紙ふぶきをなびかせて走り出す流星号。
走り出しは順調だったが二番的付近から失速し、トコトコゆっくり駆けだした。観客から「ハイヤー」、「走らんか」などとはやし立てられても何食わぬ顔で自分のペースを崩さない。
このままちゃんと走らないのではないかと心配する観客。ところが二走目からは見違えるような走りを見せた。スピードを落とすことなく疾走する。射手の蓮くんも見事に的に当てていく。その度に歓声と拍手が沸き起こり、神馬と射手を称えた。
疾走する馬上から次々に的射を成功させていく。(肝付町役場提供)
9本中8本が最高の結果とされるため、途中までパーフェクトだった蓮くんは三走目の最後の的をわざと外し、大役を無事成し遂げた。
射手の父親、増田清文さんは「怪我もなくなにより。みなさんの応援と指導があってこの結果につながりました」と大勢の支援者に感謝の気持ちをあらわした。
射手の蓮くんは「ともに成長してきた流星号と大役が果たせられてうれしい気持ちでいっぱいです」と満ち足りた表情を浮かべた。
大役を果たし終えほっとした表情を浮かべる射手と後射手。
そしてすべての神事を終えた午後3時過ぎ、見計らったかのように雨が降り出した。前述した高山流鏑馬のジンクスは今年も継続された。
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