【情報局】里村の奇祭に参加!体験レポート(前編)

肝付町の岸良地区に伝わる伝統行事の一つ「テコテンドン」が正月の2日、平田神社で行われました。このお祭りは同地区の北岳(テコテン山)に登り、山頂の北嶽神社に祀られている権現様(熊野権現)を麓の平田神社に招いて地域の無病息災・悪霊払いを祈願する神事です。

【神事の起源】

テコテンドンは古来から伝わる熊野神社の神幸祭です。その起源はとても古く、平安時代には既に熊野系の修験者によって当地にもたらされていたと考えられます。

もっとも、その頃のテコテンドンは修験者達にとって修行の一環であり、一般人が参加するのは麓でのお祭りだけだったのかもしれません。

そのせいなのか「北岳に登る」と簡単な解説がありますが、その実態は一度はぐれたら確実に遭難という、登山を通り越した「苦行」に近いものがあります(実際にはちゃんとガイド役がいて点呼を行いながら登ります)。

しかもかつてのテコテンドンは北岳だけではなく、北岳→南岳を縦走していたらしく、こうなるともはや現代の一般人には参加不可能なレベルだったと推測されます。

「テコテンドンが終わるまでは火を焚いてはならない」

この言い伝えで分かる通り、このお祭りには荒神信仰の竈(かまど)祭りが習合しています。竈祭りとは大晦日に竈の日を落とし、丁寧に掃除して火の神様に休息していただくという習慣で、新年にお祭りを済ませるまでは竈に火を入れてはならない決まりです。

かつては南岳に祀られていた霧島六所、その霧島大神が合祀された北嶽神社の御神体は山頂に鎮座する巨石であり、ここが八百万の神々を祀る古神道の聖地であることを教えてくれます。

【テコテンドンの名の由来】

「テコテン」というのは小太鼓の音を指していると言われています。
しかし正確には音だけではなく小太鼓の拍子(リズム)を含むすべてを指しており、本来は里神楽における演目の一つである「てんてこ」が語源になっています。(「テ」は小太鼓の意、テコは八分音符2連打。テンは四分音符、と考えるとわかりやすいかも)

この舞は小太鼓と笛の極めて速い演奏に合わせて踊るもので、
その慌てて舞うような姿から「てんてこまい」という言葉が生まれました。それが踊りの古い名称として残ったものなのです。(現代でも近畿地方のごく一部に「てこてん踊り」が残っています)

「ドン」は鹿児島でよく用いられる敬称であり、この場合は神殿で祀る意味にもなります。なお古記録では「天手古」という漢字が「てんてこ」にあてられていますが、完全な当て字のようです。

【令和5年1月2日 8:00 集合そして出発!】

令和5年1月2日の8:00、場所は平田神社。気温は5度前後、天候は薄曇りで弱風。全体の指揮を取る上薗輝典さんの話によれば「ベスト」と言っていいコンディションということでした。

参加者は待機組4人と登山組18人の計22人で、テコテンドン関係者や地元住民、各地の山々を踏破した実績を持つ登山家、母の里帰りでやってきた福岡の女子高生など様々。神様に道中の安全を祈願して、北嶽神社に向けて出発です。

【最初は舗装道路。しかし….】

平田神社を出発してしばらくは舗装道路(林道)が続きます。というのもこのコースは本来の北岳登山コースではなく平田神社を出発点としたテコテンドン用のコースなのです。

ほのぼのとした雰囲気の中、どんどん進んでいく一行。しかし突然、

「はい、ここで沢を渡りまーす」

いきなり道路脇の草むらを指さす先導役の上薗さん。え? これ道?さらに一変する周囲の景色。それは林道から外れて本来の北岳登山コースに向かう、いわばショートカットであり獣道(獣道ですらないかもしれません)。

それでもスタートから丁度1時間、本来の登山用林道に合流。ここで休憩を兼ねて自己紹介がありました。

しかしここである事実が発覚。それはこの地点が本来の北岳登山のコース途中なのではなく、北岳登山コースの起点だったという事。すなわちここから全てがはじまるのです。

そしてこの事実に不安を隠しきれない参加者がひとり・・・それは写真家の菊池智子さん。国内はもとより海外でも活躍している菊池さんは第38回木原伊兵衛写真賞を受賞するほどのクリエイター。このテコテンドンには知り合いの一般社団法人folklore forestの代表である米蔵さんと共に参加していました。

菊池「これ….韓国岳よりキツくないですか?」
橋野「そうね、韓国岳、二往復するぐらいかな」

さらっと答えたのは橋野さん。彼女はつい先日まで宮之浦岳にいた登山家でありテコテンドンの常連。

菊池「往復で三時間って….米蔵くん(某法人代表)に聞いてたんですけど….」
橋野「三時間って、片道じゃない?」                    
菊池「ええぇ…終わったら温泉入ってどこかで美味しい物でも食べようって….」
橋野「終わるの夕方よ?」            
菊池「….」

とはいえ、やってやろうじゃないの、という表情で前方を睨む菊池さんと、その背後で余裕の橋野さん。そしてこの後、菊池さんは地獄を見る事に・・・

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