鹿児島県肝付町の高山(こうやま)地区に伝わるやぶさめは、高山流鏑馬保存会の広報担当、武下敏行さんによると、「全国的に見ても珍しく貴重なもの」だということです。
その最大の特徴が、毎年14歳の男の子(中学2年生)が射手として選ばれ、1ヶ月あまりの練習期間を経て疾走する馬の上から矢を射るということです。
武下さんの独自の調査によれば、やぶさめが行われているのは全国に185ヶ所あり、そのうちの24ヶ所で子どもが射手を務めています。しかしながら、中身が違います。木馬に乗って矢を射るものや止まった馬から矢を射るものなど、高山のやぶさめとは次元が違うようです。
今回のやぶさめロードでは、そうした高山やぶさめの特徴について武下さんに以下で解説してもらうことにします。それと合わせて本文最後にありますビデオも一緒にご覧になることをおすすめします。
やぶさめの起源
流鏑馬は鎌倉時代に始まり、国家安泰、五穀豊饒、悪疫退散を祈願する年占いで、今もこの願はこめられています。流鏑馬の語源は、騎射の一種で、疾走する馬上から鏑矢(かぶらや)で的を射るので流鏑馬の字が使われています。
日本における流鏑馬の起源は、白河天皇の御代、永長元年(1096年)に始めたと記録にあり、鎌倉初期の保元平治物語の中にも流鏑馬のことが出ています。
四十九所神社を創建した伴兼行の孫、伴兼貞が長元9年(1036年)に大隅国肝属郡の弁済使になっていますが、高山で流鏑馬が始まったのはそれから100年位後になるようで、900年近い歴史があるとされています。
流鏑馬の期日は、昔は10月19日の四十九所神社大祭日でしたが、現在は10月の第3日曜日に行われています。
人馬一体の瞬間
狩衣装束にあやい笠を身にまとい、弓受けの儀により神の使いとなった射手は神馬とともに馬場を疾走します。
約330メートルの馬場を3回駆け抜けながら、合計9本の矢を放ちます。
引手のかけ声と共に駆け出し、矢が的に命中した音と馬の疾走する足音が共鳴した瞬間、神社の杜に大きな歓声が響きます。
馬場を駆け抜ける間は、馬の足音、射手のかけ声のみが馬場に響き渡り、観客を含め周辺はまるで時間が止まったかのように射手と馬だけが時間を感じる瞬間です。
射手は初心者
全国的に成人の射手が多い流鏑馬ですが、肝付町で行われる流鏑馬の射手は中学生が務め、毎年替わります。
8月の中旬に、中学2年生の生徒1名が射手として選ばれ、その後馬に乗るところから始まり、約1ヵ月の練習を経て本番を迎えます。
射手として選ばれた少年は、その年の町一番の大役を任せられ、受けるプレッシャーは計りしれません。射手を務める少年は、この中で保存会員の人たちや応援する人たちに支えられ、また、さまざまな教えを受けて一回り大きく成長していくのです。
神事 流鏑馬の流れ
◆8月下旬
射手決定 平成24年度射手 益山麗斗(高山中2年)
◆9月初旬
旧国鉄大隅線の跡地で練習開始(午後4時頃より)
◆9月中旬
本番会場である四十九所神社前(宮之馬場)で練習開始(午後4時頃より)
◆本番(奉納)2日前
柏原にて「潮がけ」を行い、馬と射手を海水で禊ぎ清める
これより本番当日まで宮籠りを行う
(かつては四十九所神社に篭っていましたが、現在は役場コミュニティセンターに寝泊りします)
◆本番当日(平成24年度は10月21日)
午後0時から 四十九所神社にて「弓受けの儀」
午後2時から 流鏑馬開始
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