約900年の伝統を誇る高山やぶさめには数多くの道具がかかわっています。
馬が使う馬具もあれば、射手が射る矢、そしてその矢につける雁股(かりまた)と呼ばれる鉄製の先端部分、あるいは射手や後射手、鎧武者などが履くワラジなどいろいろあります。
その道具の一つひとつをつくっているのが、町内に住む匠の方々です。今回のやぶさめロードでは、やぶさめを見えないところで支えている、そうした匠たちをご紹介します。
まず登場してもらうのは、大正15年生まれの松元義行さん。町で唯一の、というより、大隅半島唯一の鍛冶屋さんです。この松元さん、射手が射る矢の先端部分につける鉄製の雁股を30年以上にわたってつくり続けています。
高齢のため少々耳が遠くなってきてはいますが、雁股をつくる匠の技は健在です。トンカチ、トンカチ、長年の経験と鍛錬に裏づけされた技でもって確かな道具を今もつくり続けています。
次にご紹介したいのが、矢づくりの名人、中村孝美さんです。宮司さんからの依頼で平成14年から矢をつくり始めた中村さんですが、初めのうちはだれも教えてくれる人がおらず、見よう見まねでつくり方を工夫し、今の技術に達したのだといいます。
中村さんがすごいのは、自ら考案して矢づくりのための数々の小道具をつくっているところです。矢を固定する小道具ですとか、鷹の羽根を矢の後ろにつける際に使う、洗濯バサミを応用した小道具ですとか、中村さんの工房には、そうした中村さんの長年にわたる研究の成果が所狭しと並んでいます。
そして最後が、やぶさめで使われるワラジづくりをこの10年ほど続けている森田利行さんです。昭和9年生まれで今年78歳の森田さんは、ワラジづくりの基礎を町の生涯学習で学んだそうです。
知り合いから「ワラジをつくってみてくれないか」という誘いがあり、その生涯学習で身につけた技術をもとにして、やぶさめで使うワラジをつくり始めました。
この森田さんも矢づくりの中村さん同様、自分の手で工夫を重ねながら、匠の技を磨いてきているところがすばらしいところです。さまざまな小道具を考案するとともに、細部へのこだわりにも並々ならぬものがあります。
このように三者三様、つくり出すものは違っても、全員が「やぶさめ」という大きな共通目標のために全力で取り組んでおり、彼らがいなければ、やぶさめは成り立たちません。。
ただひとつ心配なのは、匠の多くが高齢者となり、後継者がなかなか見つからない点です。匠の技をどうやって継承していくのか――それもまた、今後やぶさめを存続させていくうえで考えなければならない大きな課題の一つといえるのではないでしょうか。
それではビデオで匠の技をじっくりとご覧ください。
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