【きもつき情報局】肝付町岸良産! 手作りところてん

夏場に人気の「ところてん」。
 
昔からある、なじみ深い食べものですが、手作りする機会はなかなかないもの。
 
2019年5月、肝付町岸良にある「きしらの家」で毎月開催されている「きしたんカフェ みんな食堂」で提供するために、ところてんを手作りするとの情報を得て、取材に出かけました(みんな食堂について、詳しくはこちら)。
 
今回のところてんづくりの「先生」は本田豊秋さん。岸良出身で、十数年前にUターンし、母親からところてんづくりを教わったそうです。
 
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(作業中の本田さん)
 
ところてんの材料である海藻、テングサ(天草)も、本田さんが岸良の海から採ってきたもの。
 
テングサは岩場に生えており、本田さんは「ざりん」と呼んでいる竿の先に櫛状のものをつけた道具を使って採るそうです。
 

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(「ざりん」の全長は2メートル以上! 櫛の部分にテングサを引っ掛けて、波が引いたときに引き上げるのだと教えてもらいました。櫛の歯の間から、テングサを外すのも一苦労なのだそう)
 
ちなみに、岸良で多く採れるテングサのことを地元では「ぶとのり」と呼んでいるそうです。なぜ「ぶとのり」なのか、由来はわからないとのことですが、「かごしま食暦」(著:所崎 平)という本のなかに、ところてんの漢字「心太」から、ところてんを「ブト(太)」と方言で呼ぶとの記載がありましたので、それに由来しているのかもしれません。
 
ところてんを作るテングサには種類がいくつかあります。一般的によく使われているテングサは「マクサ」という種類。しかし、岸良でよくとれ、「ぶとのり」と呼ばれているのは「オニクサ」または「オオブサ」という種類のようです(違っていたらご指摘ください!)。
 
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(左が乾燥した「ぶとのり」。右のテングサ(マクサ)と比べると太い!)
 
この「ぶとのり」だけでも、ところてんを作ることができますが、マクサでつくるものと比べると固くなり、弾力がないので、本田さんは2種類を混ぜてつくっています(マクサも岸良にある「秘密の場所」から採ってきているそう!)。
 
また、マクサは煮出せるのは、ほぼ1回だけど、「ぶとのり」は3、4回、煮出せるのだと教えてもらいました。

 

◯ところてんづくり

 

海から採ってきたテングサは、まず干して乾燥させます。エビやらカニやらフジツボやらが紛れ込んでいるそうで、それらを取り除き、根もとの部分を切り落とします。
 
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(そのまま干したテングサは赤紫色)
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(浜に打ち上げられた貝殻つきのテングサ? このようについている貝殻などを取りのぞきます)
 
水に一晩つけて、また干してを3~4回、繰り返して、色が抜けたものを保存します。よく乾燥させたものは何年ももつそうです。
 
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(色が抜けたテングサ。この状態で食べても、ただの繊維のようで味はほぼしません!)
 
まずは、この乾燥したテングサを一晩水につけて戻します。
 
戻したテングサが十分浸かるくらいの水といっしょに鍋へ入れて、酢を入れます。人によっては沸騰してから入れる人もいるとのこと。
 
割合は経験にもとづく目分量ですが、水10リットルに対して酢150ccくらい。テングサも目分量(このときはバケツ一杯)。煮詰めるのであまり量は気にしなくていいのだそうです。
ちなみに、昔は梅干しをつくるときに出てくる「梅酢」を使っていたそうです。
 
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(煮詰める時間の目安は温泉の「坊主地獄」のように大きな泡が出てくるようになるまで)
 
1時間ほど煮詰めたところで、少量を器にとって氷水につけて、固まるかどうかを確認。固まっていたら、目の細かな木綿の袋(みすま袋※)を使ってこします。ところてん液は熱いのでやけどに注意が必要です。
 
※みすま袋について詳しくはこちら
 
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(固まるかどうかを確認)
 
 

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(長い一枚の布からつくった「みすま袋」。長いものを使うのは、ねじって棒に巻き付けて搾り切るため)
 
ところてん液を型箱に流し込み、泡をすくってとります。その後は動かさないようにして固まるのを待ちます。
 
再び同じ鍋にテングサを両手ひとつかみほど追加して水と酢を入れ、煮詰めます。毎回テングサを追加しながら3回煮出しました。
 
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(すくった泡はムースのよう! わかりづらいですが、最初につくった左側のものは色濃く出ています)
 
試しに氷水で冷やし固めたものを、本田さん手作りの「ところてん突き」を使い、突き出して完成です。大きな容器に入れたものも、夕方にはしっかり固まりました。
 
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(ところてん突きにはまるように切り出すのが意外と難しい!)
 

 

◯ところてんにまつわる昔の話

 
「みんな食堂」に集まった方々に聞いてみたところ、口々に「昔は家でつくっていた」「海に採りに行っていた」と教えてくれました。
 
崖のようになっている岩場から海へと下りてテングサをとり、帰るまで岩の上に干し、米をいれる袋「かます」に入れて背負って帰っていたという話も聞きました。昔は干したテングサ(ぶとのり)を出荷する人もいたそうです。
 
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(にぎわう「みんな食堂」。ところてんの味付けは、酢醤油よりも酢味噌が人気のようでした)
 
また、ところてんは、お盆には必須とのことで、今も初盆の家では弔問客へ、そうめんと一緒にところてんをふるまう風習が残っているそうです。
 
ちなみにこのときの、そうめん汁には「三角形に切った厚揚げとこんにゃく、しいたけ」などをのせるのが岸良では一般的だそう。厚揚げとこんにゃくは「三角形にしないといけない」といわれているそうですが、由来ははっきりせず「死装束の頭巾の形なのではないか」「昔、葬式のときに肩にかけていた三角形の布ではないか」といった見解が多数でした。さらに、隣の内之浦地区では、ところてんも三角形に切って出していたという情報もありました。
 
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(お持ち帰り用も販売したところ大人気で完売!)
 
身近な食べものですが、意外と知らないことも多いところてん。テングサが手に入ったときは、手作りに挑戦してみてはいかがでしょうか。
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